第1 被告準備書面(1)の釈明
1 求釈明事項による真相の解明と迅速な裁判
原告は、第一準備書面の「第3 答弁書に対する求釈明事項」において、訴状主張事実に対する被告の認否につき、答弁書の該当箇所を明示して24事項(同4〜14頁)、「第4 その他の求釈明事項」においても7事項(同14〜17頁)、合計31事項に及ぶ釈明を求めている。これらの求釈明事項は、本件訴訟の争点を明確にし、事案の真相解明と迅速な裁判のために不可欠なものである。
とりわけ、本請求の趣旨第1乃至第4項は公金支出の差止めを求めるものだが、これらの1号請求は事業の完成により訴えの利益を失うという理由で却下されうるので、この本来的・第一次的な請求である1号請求を無意味としないためにも、迅速な裁判が欠かせない。しかるに、被告の第1回口頭弁論期日における釈明によると、県は、本件訴訟にも拘わらず、本件事業を中止することなく完成させることを明らかにしている。違法な事業完成による1号請求の却下という、1号請求の制度趣旨に反する異常な事態を避けるためにも、被告は、上記求釈明事項につき次回弁論期日までに釈明して、迅速な裁判の実現に協力すべきである。
上記第一準備書面において主張されたように(同1〜3頁)、本件訴訟は公益の実現をはかる客観訴訟であり、平成14年地方自治法改正後の住民訴訟制度の被告は4号請求を含め県知事とされ、被告県知事は、いやしくも個人としての長や職員のためではなく、県(県民)のために違法な公金支出の有無を客観的に明らかにすべく訴訟追行するのだから、上記求釈明事項を拒否すべき理由はない。個人としての長・職員の利益は必要的な訴訟告知の制度によって図られている。いやしくも訴訟の遅延、訴訟資料の不提出・求釈明事項の無視などによる真相解明へのサボタージュによって、個人としての長・職員のために訴訟追行してはならない。
2 被告の釈明
上記のような求釈明事項の趣旨と被告県知事の訴訟追行上の義務に照らすと、被告準備書面(1)による釈明は極めて不十分である。
(1)森林計画制度の主張
被告準備書面(1)の「第1 事業内容 1 森林計画制度」の主張は、一般的な森林計画制度の概略でしかない。
被告は、本件地域森林計画につき、いかなる社会的・経済的・自然的要因に基づき、訴状別紙林道目録記載の本件林道開設事業の必要性・相当性・合理性などを判断したのか、同事業が訴状28〜46頁において主張した各種個別法規の適法性要件に反しないと判断したのか、資料・データ・根拠を示して具体的に主張を展開すべきである。このような主張がないと、本件地域森林計画による本件林道開設事業の違法性が推定されても仕方がない。
以上のような必要性・相当性・合理性・個別法規の適法性要件充足の判断を実際に行っているのであれば、その主張は容易なはずである。このような判断を怠ったのであれば、その旨の釈明をすべきである。
(2)林道開設事業の主張
被告準備書面(1)の「第1 事業内容 2 林道開設事業」の主張についていえば、その「(1)伊江原林道(2)チイバナ林道(3)楚州仲尾林道」の各「ア 事業概要 イ 事業目的」の主張も極めて不十分である。
各林道につき、その「ア 事業概要」のところで主張された各林道が、当該「イ 事業目的」として主張された目的達成のために必要不可欠と判断した所以を、当該林道開設事業の必要性・相当性・合理性と上記個別法規の適法性要件充足性につき、判断の根拠となった各種資料・データ・調査結果などに基づき、具体的に主張すべきである。
たとえば、伊江原林道の「事業目的」の説明は、以下のものでしかない。
「利用区域の森林は、人工林30ヘクタール、天然林8ヘクタールで、収穫を目的として造林されたリュウキュウマツの人工林20〜45年生が大半を占めている。当該林道は、森林の適正な育成、保全及び管理に必要な森林施業を行うことを開設目的としている。また、森林施業以外にも森林リクレーションやエコツーリズム利用等が予想される(乙4・調書)。」
これは乙4号証二枚目表の「事業の目的」欄の記載の一部を書き写したにすぎない。このような事業目的のために、被告準備書面(1)の「事業概要」で主張された「奧U号線を起点とし、県営林51林班を通り、県道70号線を終点とする延長199メートル(ママ。誤記と思われる)、全幅員3メートル、総事業費1億9623万円」の林道開設事業の適法性を判断することは、不可能である。仮に、上記事業目的として主張されたところだけに基づき事業決定したのであれば、伊江原林道はそれ自体で違法な事業ということになる。その理由は以下の通りである。
第一に、伊江原林道に係る自然的・社会的・経済的諸条件が明らかにされていない。とくに、やんばるは、東洋のガラパゴスと讃えられる自然環境の聖地であり(訴状7〜9頁)、多くの固有種・希少種・貴重種の生息・生育地なのだから(同9〜13頁)、本件事業のように自然環境に与える影響が大きい事業の実施に際しては、環境影響評価を実施するのでなければ環境配慮義務を尽くしたことにはならない(同31〜33頁)。それ故、上記諸条件、とりわけ自然的条件の調査結果を明らかにすべきである。
第二に、当該地域には既存林道が縦横無尽に張りめぐらされているので、この既存林道の活用によって当該「森林の適正な育成、保全及び管理に必要な森林施業」が実施できないかの検討が必要不可欠である。その上で、既存林道による森林施業と伊江原林道による森林施業の比較を、「総事業費1億9623万円を要した」伊江原林道の開設を正当化できるかという観点から、厳密に行う必要がある。この検証作業がなければ、伊江原林道の必要性・相当性・合理性もありえず、違法な公金支出というほかはない。
第三に、伊江原林道の「費用対効果指数2.3」「開設効果指数3.7」とされているが(乙4号証1枚目表の「開設事業に係る指数等」の欄)、その算定根拠が不明である。同林道開設による自然災害事業費、林道管理・修繕費、マングース対策費、林道開設による森林の公益的機能喪失の経済的損失額、赤土汚染による河川・海洋の赤土対策費等が考慮されていないとすると、ここでも違法評価を免れない。
第四に、舗装された林道はそうでない林道と比較して、開設費用も桁違いに高く、自然環境に与える影響も甚大であるので、生物多様性の宝庫であるやんばるでは林道舗装は避ける必要がある。訴状で主張したように、県の林道舗装率は異常に高く88%にも達し、全国平均の39%を大幅に上回っており、このこと自体すでに林道舗装の不必要性を推定させるに十分であるが(同14頁)、伊江原林道の舗装を必要とする理由を明らかにすべきである。のみならず、「森林リクレーションやエコツーリズム利用等」のためには舗装の必要はなく、むしろ有害ですらある。
第五に、やんばるでは林道がマングースの進入路となっており、県の事業として、林道沿いにマングース防止柵・捕獲器などが設置されているが、伊江原林道開設につき講じられるマングース対策事業の内容・費用などを明らかにすべきである。この費用額は上記費用対効果分析においても考慮される必要がある。
第六に、伊江原林道を森林管理道として実施される上記森林施業について、その@事業主体(発注者と受注者)A事業内容(森林施業の実施内容)B事業効果(森林施業の経済的効果)C事業費用などが明らかにされていない。やんばるで実施されている森林施業の実際は、訴状において詳述したように、森林整備事業としてなされる補助事業であるが、経済的効果がないだけでなく自然生態系を破壊する無意味な公共事業であって、森林組合のための補助事業でしかない(同37〜38頁)。このような補助事業である森林整備事業の必要性・相当性・合理性の主張がないとすれば、そのための森林管理道である伊江原林道の開設事業も違法となる。
第七に、伊江原林道の路線につき、ルート・規格・構造選定の理由を明らかにすべきである。伊江原林道は急峻な渓流沿いにむりやり開設されており、その山側の法面勾配・谷側への傾斜度は想像を絶するもので、あたかも林道の上部は断崖絶壁が迫り、その下部は谷底に真っ逆さまに落ちるが如くである。すでに無数の法面崩落・路面崩壊・落石落木・土石流の自然災害が多発し、通行車両・通行人への人災事故の発生も必定である。このような場所に、現行のルート・規格・構造で林道を開設した根拠を明らかにすべきである。
以上のような被告による林道開設事業の主張の不十分さは、チイバナ林道(被告準備書面(1)3〜4頁)や楚州仲尾林道(同4〜5頁)についても同様に妥当する。被告によると、チイバナ林道の「総事業費は5億6056万円」、楚州仲尾林道の「総事業費は2億6800万円」とされているが、その「事業目的」の主張はそれぞれ以下のものでしかないからである。以下の数行程度の主張だけでは、総事業費「5億6056万円」「2億6800万円」―実際には、自然災害事業費・維持管理費・赤土汚染対策費・マングース対策費等の林道開設に不可避的に伴う事業費を加算すれば天文学的な数字に達する―にも及ぶ公金支出の必要性・相当性・合理性のないことは明らかであり、各種個別法規の適法要件充足性の判断も不可能である。
「(チイバナ林道の)本路線の利用区域は、124ヘクタールである。
利用区域内の森林は、収穫を目的として造林された30年生内外のリュウキュウマツの人工林が半分以上を占めている。当該林道は、森林の適正な育成、保全及び管理に必要な森林施業を行うことを林道の開設目的としている。また、森林施業以外にも森林リクレーションやエコツーリズム利用等が予想される(乙5・調書)」
「(楚州仲尾林道の)本路線の利用区域は、47ヘクタールである。
利用区域の森林は、人工林16ヘクタール、天然林31ヘクタールであり、当該林道は、森林の適正な育成、保全及び管理に必要な森林施業を行うことを林道の開設目的としている。また、森林施業以外にも森林リクレーションやエコツーリズム利用等が予想されている(乙6・調書)」
第2 伊江原林道・チイバナ林道・楚州仲尾林道の同一性
1 伊江原林道の同一性
被告によると、同林道は、「平成15年12月に策定された沖縄北部地域森林計画書においては『奥支線(1)』として記載」されていたが、「平成17年12月に策定された沖縄北部地域森林計画変更計画書においては『伊江原線』として記載」されたという(被告準備書面(1)3頁)。
上記平成15年12月に策定された沖縄北部地域森林計画書(以下「15年計画書」という)によると、「路線名 奥支線(1) 延長1.8km 利用区域面積45ha 針葉樹材積2646m3 広葉樹材積1134m3」とされている。上記平成17年12月に策定された沖縄北部地域森林計画変更計画書(以下、「17年計画書」という)では、「路線名 伊江原 延長2.1km 利用区域面積38ha 針葉樹材積3605m3 広葉樹材積1793m3」となっている。
15年計画書の奥支線(1)と17年計画書の伊江原を比較すると、延長距離は「1.8km→2.1km」と0.3km長くなっているのに、利用区域面積は反対に「45ha→38ha」と7haも減っている。このように利用区域面積が7haも減少しているのに、材積は針葉樹・広葉樹合計で「3780m3→5398m3」と1618m3も増加していて、2年間の成長分を考慮しても同一性の認定は困難である。
さらに不可解なのは、平成19年3月の沖縄北部地域森林計画変更計画書(乙3号証17枚目表。以下「19年計画書」という)においては、「路線名 伊江原 延長2.0km 利用区域面積38ha 針葉樹材積3605m3 広葉樹材積1793m3」という記載が存在する一方、17年計画書によって無くなったはずの「路線名 奥支線(1) 延長1.5km 利用区域面積40ha 針葉樹材積6392m3 広葉樹材積1792m3」という記載が存在することである。
17年計画書と19年計画書を対比すると、延長距離は「2.1km→2.0km」と0.1km短縮されているのに、利用区域面積は「38ha」と同一であり、材積も2年間の成長分があるはずなのに「針葉樹材積3605m3 広葉樹材積1793m3」と同一である。
以上を総合すると、奥支線(1)と伊江原林道の同一性には疑義がある。
2 チイバナ林道の同一性
被告によると、同林道は、「平成15年12月に策定された沖縄北部地域森林計画書においては『宇嘉支線(2)』として記載」されていたが、「平成17年12月に策定された沖縄北部地域森林計画変更計画書においては『チイバナ
線』として記載」されたという(被告準備書面(1)4頁)。
15年計画書によると、「路線名 宇嘉支線(2) 延長2.7km 利用区域面積75ha 針葉樹材積1274m3 広葉樹材積5561m3」と記載されているが、17年計画書では、「路線名 チイバナ 延長2.9km 利用区域面積124ha 針葉樹材積7933m3 広葉樹材積6508m3」と記載されている。両者を比較検討すると、延長距離は「2.7km→2.9km」と0.2km増加しただけなのに、利用区域面積は「75ha→124ha」と49haも増加し、材積も針葉樹・広葉樹合計で「6835m3→14441m3」と2倍以上に増加しており、2年間の成長分だけでは説明がつかない。
さらに不可思議なのは、19年計画書では「路線名 チイバナ 延長3.0km 利用区域面積124ha 針葉樹材積7933m3 広葉樹材積6508m3」と記載されていて、延長距離が「2.9km→3.0km」と0.1km増加したのに、今度は、利用区域面積「124ha」で変わらず、材積も2年間の成長分があるはずなのに「針葉樹材積7933m3 広葉樹材積6508m3」で全く変わらない点である。
宇嘉支線(2)とチイバナ林道の同一性にも疑義がある。
3 楚州仲尾林道の同一性
? 被告によると、同林道は17年計画書において「新たに追加された林道であり、同変更計画書には『伊楚支線(1)』として記載」されており、19年計画書では「『楚州仲尾線』と記載」されたという。
17年計画書によると、「路線名 伊楚支線(1) 延長1.5km 利用区域面積52ha 針葉樹材積4233m3 広葉樹材積604m3」と記載されているが、19年計画書の記載は「路線名 楚州仲尾線 延長1.5km 利用区域面積47ha 針葉樹材積711m3 広葉樹材積2728m3」となっている。
両者を比較すると、延長距離は1.5kmと同一であるのに、利用区域面積は「52ha→47ha」と5ha減少しているし、材積についても、針葉樹材積が「4233m3→711m3」広葉樹材積が「604m3→2728m3」と激変している(両者間で、針葉樹は16%(=711÷4233)に減少し、広葉樹は451%(=2728÷604)も増加している)。材積合計でも、2年間の成長分があるはずなのに、逆に「4837m3→3439m3」と71%(=3439÷4837)の減少となっている。
のみならず、19年計画書には「路線名 伊楚支線 延長2.0km 利用区域面積43ha 針葉樹材積1293m3 広葉樹材積3354m3」という記載もあり、この伊楚支線と楚州仲尾線の関係も不明である。加えて、当初の15年計画書において記載されていなかった林道を、その「変更」計画書である17年計画書によって「追加」できるかも疑問である。
伊楚支線(1)と楚州仲尾林道の同一性にも疑義がある。
第3 求釈明事項と文書提出の追加
1 各路線の対応関係と林道位置図
上記のように、15年計画書、17年計画書、19年計画書の三つを比較検討すると、路線名、延長距離、利用区域面積・材積に食い違いが見られる。
それ故、これらの計画書の各路線の対応関係・同一性を明らかにし、かつ、各計画書ごとの各路線の位置関係を図示した林道位置図を作成提出されたい。
2 平成18年度以外の森林整備事業(林道)実態調書
乙4号証は、伊江原林道に係る平成18年度森林整備事業(林道)実態調書であるが、同号証によると「採択年度 平成16年度」とされているので、平成16年度、同17年度、同19年度の森林整備事業(林道)実態調書の提出を求める。
同じく乙5号証は、チイバナ林道に係る平成19年度森林整備事業(林道)実態調書であるが、同号証によると「採択年度 平成16年度」とされているので、平成16年度、同17年度、同18年度の森林整備事業(林道)実態調書の提出を求める。
更に、乙6号証は、楚州仲尾林道に係る平成19年度森林整備事業(林道)実態調書であるが、同号証によると「採択年度 平成18年度」とされているので、平成18年度の森林整備事業(林道)実態調書の提出を求める。
3 その他の林道の事業内容と文書提出
原告は、伊江原林道、チイバナ林道及び楚州仲尾林道以外の訴状別紙林道目録記載の林道の公金支出差止めを求めているところ、県は、これらの林道開設事業の事業者であり、その必要性・相当性・合理性・各個別法規の適法性要件充足性を判断したのだから、これらの事項についての釈明とその判断の根拠となった資料・データ・文書の提出を重ねて求める。
以上のような判断の実施を怠ったのであれば、その旨、釈明されたい。
第4 チイバナ林道の砂防ダム破壊と県環境影響評価条例の適用
砂防法によると、国土交通大臣は「砂防設備を要する土地又は治水上砂防の為一定の行為を禁止若は制限すべき土地」を指定し(2条)、都道府県知事は指定地において「治水上砂防の為一定の行為を禁止若は制限」することができ(4条1項)、この禁止・制限の解除には許可が必要とされている(29条)。これらは指定地の範囲外でも「治水上砂防の為施設するもの」に準用されている(3条)。都道府県知事は「砂防指定地台帳」と「砂防設備台帳」という二つの砂防の台帳を調整保管することになっている(11条の2)。
同林道起点より約300mの地点にいわゆる砂防設備(砂防ダム)が存在し、昭和51年の復旧治山事業で設置されたものである。同林道は、砂防ダムのほぼ中央部を貫通するように開設されているが、砂防ダム内の土砂滞留容量部分を相当範囲に亘って埋め立て、かつ、砂防ダムの堤体本体の相当部分を削り取って設置されている。この砂防ダムの破壊改変についても手続的な合法性が問題となる。仮に、砂防法所定の許可を得ていないとすると林道の開設は違法評価され、違法工事等の賠償義務(25条)、違反事実の更正等(30条)の問題を生ぜしめる。
更に、同林道は車道幅員3m以下のものとして、県の環境影響評価条例の適用対象外事業とされ、環境影響評価が実施されていない。同条例上、林道のアセス対象事業の規模要件は、車道幅員4m以上・延長距離2km以上とされている。同林道の路肩部分を含めた全幅員―車道幅員でない―は4mあり、延長距離も約3kmに達しているのだから、アセス対象外とする理由は見だしがたい。この点は措くとしても、同林道には車道幅員4m以上・全幅員5m以上に及ぶ部分が相当箇所・距離に亘って存在するので、林道全体の環境影響評価の実施が必要であり、その不実施は違法評価を免れない。
同林道の実際の車道幅員・全幅員の長さを明らかし、その測量結果を図面にして提出するように求める。 |